超常現象

『呪い』は効く。ただしあなたが思っている理由ではない


呪いは効く。オカルトとしてではなく、医学が説明できる現象として。そして同じ仕組みは、呪いとは無縁のはずのあなたの体の中でも、毎日のように起きている。


あなたは、説明書を読んだだけで具合が悪くなったことがある

薬局でもらった薬の袋に、小さな字で副作用が並んでいる。「眠気」「吐き気」「倦怠感」。読み終えたあと、なんとなく体がだるい気がしてくる。気のせいだ、と思って薬を飲む。

だが、それは本当に気のせいだろうか。

飲んだのが、有効成分の入っていないただの偽薬だったとしても、その「だるさ」は現れる。しかも本物の薬を飲んだときと、見分けがつかないほどはっきりと。これは精神論ではなく、繰り返し実験で確かめられている。そしてこの現象には、「呪い」と地続きの名前がついている。

ノーシーボ──偽薬が、本物の苦痛を生む

「ノーシーボ効果」と呼ばれる。プラシーボ効果(偽薬で症状が改善する現象)のちょうど裏返しで、「悪い結果を予期すると、その通りの症状が本当に出る」現象を指す。名づけたのは医師のW.P.ケネディで、1961年のことだ。

これが迷信でないことを最も鮮やかに示したのが、2021年に発表されたSAMSON試験である。英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームが、コレステロール薬(スタチン)の副作用で服用をやめた患者を対象に、英国内17施設で行った。患者には、本物の薬・偽薬・何も入っていない空の容器を、本人にも分からない順で1年かけて飲ませ、毎日の不調をスマートフォンで記録させた。

結果は衝撃的だった。患者が「スタチンのせいだ」と感じた不調のうち、実に90%が、偽薬を飲んだ月にも同じように現れていたのだ。さらに、この事実を知った患者の半数が、いったん諦めた薬の服用を再開できた。2002年に米国の研究者バースキーらが医学誌JAMAで指摘していた「薬の非特異的な副作用」の正体が、ここで数字として可視化された。

では、なぜ何も入っていない錠剤が、本物の痛みを生むのか。

脳は、予期したものを体に命じる

ノーシーボは、脳が「これから悪いことが起きる」と予期した瞬間に始まる。期待や不安が引き金となり、ストレスホルモンや痛みに関わる神経伝達物質が放出され、実際に体が反応すると考えられている。脳は未来を予測する器官であり、予測した苦痛を、しばしば現実として作り出してしまう。

ただし、慎重な留保もある。日常で感じる不調の中には、薬とも予期とも無関係に、もともと存在していた症状や、病気そのものの症状が紛れ込む。だからノーシーボを厳密に測るには、SAMSONのように「何も飲まない期間」と比べる必要があり、それを欠いた研究では効果を過大評価しかねない、という批判は根強い。

それでも、「強く信じた負の予期が、測定可能な身体変化を起こす」という一点は揺らがない。古くは1942年、生理学者ウォルター・キャノンが、呪術を信じる社会で「呪われた」とされた人が衰弱していく現象を報告している(その解釈は今も論争があるが)。科学はこの仕組みを説明する。そして奇妙なことに、まったく同じ一点で、人類が遥か昔から知っていた知恵と重なる。

言葉が体を変えることを、人類はずっと知っていた

呪いは、世界中のあらゆる文化に存在する。日本の丑の刻参り、西アフリカに起源を持つブードゥー、各地の呪術。形は違っても、その根にあるのは一つの確信だ──言葉や念は、目に見えない経路で、現実の肉体に作用する。

日本にはさらに「言霊」という思想がある。口にした言葉そのものに力が宿り、現実を引き寄せるという考えだ。祝詞は人を癒し、呪詛は人を弱らせる。それは比喩ではなく、言葉が世界に触れる実際の手だと信じられてきた。

この感覚は、あなたの中にもあるはずだ。誰かに「お前はダメだ」と言われ続けたとき、本当に体が重くなった経験。逆に「大丈夫」の一言で、こわばりがほどけた経験。私たちは、言葉が体を変えることを、理屈より先に知っている。

呪いの正体は、あなたの中にもある

科学は「ノーシーボ」と呼び、スピリチュアルは「呪い」や「言霊」と呼ぶ。だが両者が指しているのは、同じ一つの現象だ──負の期待は、信じた者の体を、現実に変えてしまう。

だとすれば、呪いは特別な誰かにかける特別な術ではない。それは医学の現象であり、同時に、あなたの体の中で毎日起きていることでもある。プラスの期待が体を癒す引き寄せの法則が実在するなら、その裏返しが存在しないはずがない。

あなたが今日、鏡の前で「どうせ自分なんて」とつぶやいたその一言は、あなたの脳に、そしてあなたの体に、何を命じていたのだろうか。


参考文献

  • Howard, J.P. ほか「Side Effect Patterns in a Crossover Trial of Statin, Placebo, and No Treatment(SAMSON試験)」Journal of the American College of Cardiology、2021年
  • Barsky, A.J. ほか「Nonspecific Medication Side Effects and the Nocebo Phenomenon」JAMA、2002年
  • Kennedy, W.P.「The Nocebo Reaction」Medical World、1961年
  • Cannon, W.B.「”Voodoo” Death」American Anthropologist、1942年

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